naisentaiken’s diary

エルサルバドル内戦体験記

爺様怒った

ところで、昨日、爺さまが怒った。

みんなが外に出かけようとしたときに、爺さまは自分も出たがって、玄関の扉の前に座っていた。そうしたら先に出かかった娘が、あわててドアのかぎを閉めようとしたんだけど、爺さまは抵抗して手に持った杖をドアに挟んで閉めさせまいとした。マリがあわてて娘を助けようとしたから、爺さまは怒った。

後ろから出ようとしていた私は、爺さまが気の毒に思って、そんなことしないで、出させてあげなさいと、言ったら、二人がドアを緩めたので、爺さまは外に出た。

ところが、玄関の戸の次には鎖でできた錠前つきの鉄門があって、そこを突破されたら通りになる。二人はあわてて、爺様を通りに出すまいとして重い鉄門を開けて、外から鎖をかけようとしたが、爺さまはまた杖を使って怒り満面にたたえて鉄門を閉めさせまいとした。その姿が、あまりに気の毒で、門を閉めようとする二人が牢番のように見えた。

私も出掛けるつもりだったけれど、あまりに二人の姿が理不尽に見えた。私は新参者で事情を知らないけれど、いつも同じロッキングチェアーに座っているだけの爺さまが気の毒だったから、自分がつきあうから、爺様を出して外の空気をたまには吸わせてあげなさいと言って、鎖をはずして爺様を外に出した。

彼は片手で杖をついて、もう一方の手で塀などに触りながらしか歩けない。杖だけで遠くに行けるはずがない。

泳ぐように爺さまは外に出た。娘は息子に自転車を教えるために、そこいらを回ってくるといい、マリは何か買い物に出た。私も自転車の練習のつもりだったけど、変更して爺さまの後ろについて行った。ところで彼はすぐに疲れて民家の外庭の仕切りの石の上に座ったので、私もそばに座った。ひどい臭気が漂っていたが、外の空気が気持ちよさそうだった。

そこに犬を連れた夫婦が通りかかり、爺さまに親しげにあいさつした。彼は爺さまの同業者でテーラーだそうで、爺様引退後、ミシンを譲り受けたという人物だそうだ。

もう、誰のことも見分けつかないんだろうなあ、と彼が言った。時によりますよ、と私は答えた。実は、爺様の目が怒っているとき、彼がとんでもない夢の世界をさまよっていることを知っていた。彼の目が穏やかな時、彼は私のことを分かっている目つきで、いつも私に挨拶していた。おかしなことを言うけれど、私のことは、どうもわかっているようだと、私はいつも感じていた。

彼らが犬を連れて去った後、爺さまは急に立って、自主的に家に戻り始めた。何も言わなかった。よたよたと周りの塀につかまっておぼつかない足取りで、玄関に入り、玄関のすぐ入口に置いてあるソファに腰を下ろしたとき、私をじっと見て、かた手を挙げ、穏やかな目つきで、ありがとう、といった。その目は、30数年前から知っている、ある目つきだった。この人はいつも私を尊重してくれた。出会いの初めから、現在に至るまで、この人は私を忘れなかった。