naisentaiken’s diary

エルサルバドル内戦体験記

カメの卵

カメの卵

マリが、カメの卵を買ってきた。禁止されているはずだけど、公の市場で売っているらしい。珍しいだけでたいしておいしいものではないけれど、通の食べ物だ。夫が喜んで食べたから、マリはまた買ってきた。で、マリに私は爺様にあげるように提案した。

爺さまは、昔私の知っている時代、カメの卵をよく食べて、好きだったはずだ。ここ数年は、爺さまは同じものしか食べていない。何を出しても子供の時以来の常食であるトルティージャとコーヒーと甘いパンと、卵しか食べなくなったという。酒類は好きで、主人が飲むときは、少しついで上げている。食事には何も興味がなくなって、生命維持のためにだけ、めんどくさそうに食べているらしい。マリもいつも面倒臭そうに同じ食事を作る。痰を吐きながらの食事だから、みんなと少し離れたところで、しかも、食器にいたると、まるで犬の皿だった。中身はともかく、食器だけを買い替えて、少し人間扱いしたのだけど、爺さまは食事がつらそうだった。

マリは今日、私の提案を受け入れて、カメの卵を茹でて、爺様に出した。それを見た爺さまの表情が変わった。「これはカメの卵だな」と、はっきりした言葉で言った。「もう何年も食べていないな。」

今まで舌がもつれて、爺様の言葉は、何を言っているのかわからなかった。ところがカメの卵を見て、彼は表情を緩め、はっきりとものを言った。そして彼は、カメの卵を食べて、これまでみたことがないような幸福そうな顔つきをしていた。