そうだ、Y子だ!

天気はぐずついているが、私の体は回復傾向にある。体をいたわりながら毎日、崖を眺めてああしたらどうだろう、こうしたらどうだろうと、造園のことを考えている。

造園だから、体力ばかりではなくて、少し審美眼が必要で、自然の石や、草などをこよなく愛している人が、もう一人必要だなあと思っていた。

主人は力もあり、心優しい男なのだけど、一つの目的には、一つの方法しか考えない男だ。彼がやっていた仕事は、土留めとしては、私がやったことより、確実だろう。そのことを100%納得しているけれど、素材を丸で考えずに、板だの棒きれだのを、うちこんだ杭に貼り付けて、まるでホームレスの掘っ立て小屋だ。

目的は確かに達成している。でも、美的じゃない。崖が崩れるのを防ぐ方をとるか、美的価値をとるかと言えば、命のためには確かに崖崩れを防ぐ方を優先するのが「正しい」。

しかしねえ。私はぶつぶつという。もともとホームレスの掘っ立て小屋を作るつもりなら、目的だけ適えばいい。でもホームレスだって、エルサルバドルのホームレスと違って、日本には案外器用で教養のある人がいて、自分の小屋ぐらい、こじんまりとかっこよく建てる人だっているのを思うと、実は、ちょっと情けない。

毎日毎日、「あのみっともない部分」を眺めながら、あれを「利用」して、もっと見栄えのいいものにするには、どうするべきかを考えていた。

10年前、この家に引っ越してきた頃、昔の家に池を作っていたので、金魚がたくさんいて、金魚を移すためにここにも行けを作った。その時主人が言っていた言葉をふと思い出した。「あの崖の上から、この池にかけて、滝を流したら、面白いなあ!」

滝を流すのは、大反対。でも、枯山水なら・・・。

そんな大それたことは経済的に無理。でも、腰痛ばあさんの出来る範囲で、石や、岩や、草や、灌木をいろいろ配置すれば、少なくとも、「今より」は「見られるもの」ができるかもしれない。誰も満足しなくていい、少なくともここの住人である、私が納得するようなものができるかもしれない。

でも、私はこの崖を2階から眺めることが多いので、崖で仕事をし、あとで2階から眺めてみると、どうもうまくいっていないことに気がつくのだ。だれか、手伝ってくれる人がいないかなあ、と考えてみた。それには、造園に興味を持ち、草や木や岩が好きな人。そのことを2週間考えた。

それでとうとう思い出した。そうだ!Y子がいた。

Y子というのは、書家なんだけど、60過ぎても餓鬼みたいなやつで、そのくせ高校や大学で先生、やっている。昔勤めていた高校で出会って以来、極めて偶に連絡し合っている、飲み友達だった。それで、彼女、草木や石ころに関して、感性としては右に出るやつはいない。いつかトルコに一緒に旅行したけれど、歴史建造物なんかまるで見ないで、草木や石ころを探して地べたに這いつくばってばかりいた。そうだ、そうだ、彼女がいた。

彼女は、私の青春時代のばか騒ぎをみんな傍らで見ていたくせに、変に私を買いかぶっていてくれて、私が65歳の定年前に2度ほど臨時採用の講師として2件の高校に私を紹介してくれた人物だ。

しかも、二人は用事がないとまったく連絡を取り合わないが、連絡すると、嬉々として鳴り物入りでやってくる珍獣だ。

ま、こっちもそう思われているだろう。

で、メールアドレスを探して、昨日おととい、2回に渡ってメールしたのだけど、返事が来ない。変だなあと思って、昨夜、電話番号を探して、電話して見た。どっちにしても「探して」見ないと、すぐにわからないほど、日ごろは連絡を取り合っていないから。やっと電話に出た彼女に聞いてみたら、なんでも、パソコンが一つしかなくて、いつも、家族に占領されて、メールなんか読めないのだそうだ。

で、草木や石を配置して庭作りをしたいという話をしたら、やっぱり馬鹿みたいに大喜びで、「行く行く行く行く!!60過ぎて力はなくなったけど、若い男の子を一人ひっ捕まえてきて、力仕事させるわ!」とかいう。

「若い男の子」というのは、彼女の生徒だろう。昔から生徒のうちの使えそうな「男の子」を捕獲するのがうまかった。見えるほどには男好きではないのだけど、彼女の周りには垣根をなして男がたかっていたのを思い出す。私の家に来た時、彼女を見て兄貴がいったものだ。「あの人、あまりに無防備で、反って気持ち悪くて近づけない」

なにしろ、珍獣なんだ。それで、やっと造園の助手ができた。これから、石を探してくる。ビバホームになかったら、ジョイフル本田だな。わくわく^^